2021年4月1日から、ピロリ菌の検査方法が「ラテックス凝集法」から「ラテックス凝集比濁法」に変更され、基準値が変わりました。
ラテックス凝集比濁法
陰性<10.0U/ml
2020年3月31日以前は、3U/ml未満が陰性、3U/ml以上10U/ml未満が陽性であるが他の検査での再確認が必要
2017年4月1日以前は10U/ml未満は陰性
となっていました。3回目の変更です。
2021年3月31日以前の検査で、ピロリ菌の抗体値が分かっている人は、基準ラインの変更ですから、判定に変更はないと思いますが、「陰性」と判定されただけの人は再検査が必要です。2021年4月1日以降は検査法の変更ですから、それ以前の基準と単純に比較できません。
除菌後の勘違いに注意してください。
除菌後の人で、勘違いしている人がいます。2通りの勘違いがあります。
1つは、ピロリ菌がいなくなったのだから、もう胃癌にはならなくなった。だから、もう胃カメラの検査は受けなくても良いと思う人。
もう1つは、除菌後でも、また、ピロリ菌の検査を受ける人。
ピロリ菌は子供のころに感染して胃の粘膜を荒らし、萎縮性胃炎(慢性胃炎)にしてしまいます。この萎縮した胃の粘膜はすぐには回復しません。胃の粘膜の萎縮の進行は止まり、ゆっくり回復に向かいますが、胃の粘膜の萎縮した状態が癌の元ですから癌のリスクはすぐにはゼロになりません。胃癌のほとんどは、ピロリ菌を持っている人か除菌後の人にできます。もともとピロリ菌がいない人とは違うのです。除菌後の人も年に1回は胃カメラを受けてください。バリウムでやりたいという人がいますが、胃カメラのほうがずっと早期胃癌を発見しやすいので、ぜひ、胃カメラの検査を受けてください。
ピロリ菌は、大人には感染しませんから、1回検査をして、いなかった人、除菌に成功した人は、また、検査をし直す必要はありません。ただ、除菌後の人は血液検査で抗体価を検査すると、「抗体価」は「過去にかかったことがある」ということですから、ひっかかってしまう人がいます。はしかや風疹で抗体価を調べるのと同じ理屈です。2017年3月31日以前に抗体検査をうけた人の中には、ピロリ菌抗体が3~9の新たに陰性から陽性に変更になった方がいます。確認してください。
ピロリ菌て何?
ピロリ菌(H.pylori)とは胃の粘液の中に棲んでいるらせん状の細菌です。一方の端に「べん毛」と呼ばれる細長い「しっぽ」(べん毛)が4~8本ついていて、ヘリコプターのプロペラのようにくるくるまわしながら活発に動きまわります(図1)。
胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃がん、悪性リンパ腫(MALTリンパ腫)などの胃の病気になります。
胃では食物を消化するために強い酸(胃酸)が作られています。以前は、この胃酸の中に細菌はいないと思われていましたが、このピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)は、5歳以下の胃酸分泌機能や免疫機能がまだ不十分な頃に口から胃の中に入り、胃の粘膜の中に潜り込んで、さらに自分でアルカリ性のアンモニアを分泌して、胃酸を中和して身を守っているのです。
ピロリ菌が感染すると、このアンモニアによて胃の粘膜が炎症を起こし、萎縮性胃炎(慢性胃炎・ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎ともいわれます)となります。この委縮した胃の粘膜が胃酸に負けて胃潰瘍、十二指腸潰瘍を起こしたり、変性した胃粘膜細胞が癌化するのです。
でも、慌てないでください、ピロリ菌に感染しているからといって、みんなが潰瘍になったり、がんなどの病気になったりするわけではありません。
一部の人がなるのです。
なぜ、ピロリ菌に感染するの?
ピロリ菌の感染経路はまだはっきり解明されていませんが、飲み水や食べ物と一緒に口から入って感染すると考えられています。ほとんどが5歳以下の幼児期に感染すると言われています。それは、5歳以下の子供は胃の防御力が弱く、ピロリ菌が生きのびやすいためです。
世界的には東南アジアや南米など衛生状況が良くない地域ではピロリ菌陽性率が高く、日本でも中高年に高率なのは、戦後の不衛生な環境が原因ではないかと考えられています。現在でも、60歳以上の人では80%以上の人がピロリ菌に感染しているといわれます(図2)。
上下水道が整備され衛生環境が整った現在の日本では、このような経路の感染はまずないと思われますが、乳幼児期に親からの口移しでの食事を介した感染が新たな経路として考えられています。
キスやコップの回し飲みなどの日常生活ではピロリ菌は感染しないと考えられていますから、ご安心ください。
一度感染すると多くの場合、除菌しない限り胃の中に棲みつづけます。ピロリ菌がいても、症状がない人がほとんどです。
ピロリ菌に感染したらどうなるの?
ピロリ菌に感染した人のごく一部が、胃潰瘍・十二指腸潰瘍、慢性胃炎になり、胃がん、悪性リンパ腫(MALTリンパ腫)などになるといわれています。
最近は、健康診断でピロリ菌の抗体検査を行っている場合があり、ピロリ菌抗体が陽性だと大変心配する方がいます。ピロリ菌に感染することイコールがんになることではなく、日本人は非常に沢山の人が感染していて、その一部が、がんに移行するのです。心配しすぎることはありません。図2で示したように60歳以上では80%の人がピロリ菌に感染していますが、皆さんお元気ですよね。
ピロリ菌に感染するとなぜ病気になるの?
胃の中は胃酸のため強い酸性になっていて、普通の細菌は生きていけませんが、ピロリ菌はウレアーゼという酵素をだして、胃の中の尿素を分解してアンモニア(アルカリ性)のバリアを作り、胃酸から身を守っています。
このアンモニアなどによって直接胃の粘膜が傷つけられたり、ピロリ菌から胃を守ろうとする免疫反応により胃の粘膜に炎症が起こります。炎症を起こした胃の粘膜細胞は徐々に萎縮していきます。こうしてピロリ菌に感染している状態が長くつづくことで、この萎縮した粘膜細胞が発がん性を有したり、胃酸に負けて潰瘍を起こしたり、さまざまな病気を引き起こすのです。
胃・十二指腸潰瘍
胃潰瘍や十二指腸潰瘍の患者さんの約90%がピロリ菌に感染しています。
ピロリ菌は胃の粘膜を傷つけて胃・十二指腸潰瘍を起こりやすくしたり、繰り返し再発を起こしやすくしているのです。
※胃・十二指腸潰瘍の原因はピロリ菌だけではありません。
- 腰痛などで処方される痛み止め
- 脳梗塞や狭心症・心筋梗塞、不整脈の治療薬として処方されるアスピリン
- ストレス、飲酒、タバコなど
も原因となります。
萎縮性胃炎と胃がん
ピロリ菌により、胃の粘膜が痛んだ状態が続くと、胃の粘膜は萎縮し、萎縮性胃炎という状態になります。この萎縮性胃炎をヘリコバクター・ピロリ感染胃炎と呼び、胃がんの原因となるといわれています。ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎では10年間で2.9%の人が胃がんになったという報告があります(図5)。萎縮性胃炎は医療的には慢性胃炎とも言いますが無症状の人が多く、ずっと胃の調子が悪いこととは違います。
また、胃がんになった人が、ピロリ菌を除菌すると、新しい胃がんが発生する確率を減らすことができる可能性があります。胃の粘膜の炎症が無くなるからです。早期胃がんの治療後にピロリ菌を除菌した患者さんは、除菌をしなかった患者さんと比べ、3年以内に新しい胃がんが発生した人が約3分の1だったと報告されています(図6)。
除菌後の胃は、萎縮の進行は止まり、徐々に改善していきますが、すぐにきれいになるわけではありません。かなり長期にわたって、萎縮性胃炎の状態が続きます。胃がんのリスクは軽減はしますが、依然、続いていきます。胃カメラによる年1回くらいの定期的な健診が必要です。
ピロリ菌はどうやって調べるの?
ピロリ菌を持っているかどうか調べる方法はいくつかあります。
迅速ウレアーゼ検査
胃カメラにより、胃の粘膜を採取してピロリ菌の産生するアンモニアを調べる方法。目で見て判定するので、不確実です。以前、この検査で陰性だった人は他の方法で再検査をした方が良いです。
抗体検査
血液を取ってピロリ菌の抗体を調べます。
- 除菌後も数年は陽性が続くので、除菌後の検査には使用できません。
便中抗原検査
便の中にピロリ菌が排泄されているか調べます。
尿素呼気検査(図7)
1錠薬を飲んだ後、専用のバッグに息を吹き込んで、息の中のピロリ菌に分解されたガスの成分を調べます。30分くらいかかります。除菌後の検査に使います。
ピロリ菌は退治できるの?
そんなに心配しないでください!!
ほとんどのピロリ菌感染者は、症状もなく、健康に暮らしています!!
退治は、「除菌療法」と言われます。
1種類の胃酸を押さえる薬と2種類の抗生物質を1週間内服するだけです。主な副作用は一般的な薬のアレルギー反応、下痢や味覚異常などです。除菌療法が成功したかどうかは、除菌薬を内服後、4週間以上たってから、尿素呼気検査で調べます。2~3か月空けるのが好ましいとされています。
2015年2月に発売されたタケキャブにより、成功率はグンと向上して、1回目で成功する可能性は90%です。これで、除菌できなかった場合は1種類抗生物質を変えて、また1週間、内服します。2次除菌といいます。2次除菌も失敗した場合、3次除菌というのもありますが、保険が効きません。原クリニックでは、2次除菌がうまくいかなかった場合は、私どもの施設では3次除菌はせずに、1年後の胃カメラの時に、再度、尿素呼気検査を行います。しばらく待っていると、ピロリ菌が消えているときがあるからです。ピロリ菌がまだいれば、もう1度、1次除菌からやり直します。
原クリニックで1次除菌に使用する薬は
タケキャブ20mg
サワシリン
クラリス
2次除菌に使用する薬は
タケキャブ20mg
サワシリン
フラジール
です。
ピロリ菌の検査を受けるにはどうするの?
健康診断、人間ドックを受けたり、医療機関を受診してください。
繰り返しますが、大事なことは、ピロリ菌を持っている人は沢山いますが、病気と関連している人はその一部なのです。
医療機関受診から除菌療法までの流れ
まずは、原クリニックを受診してください。
診察の上、まず、除菌療法の対象となる病気があるか調べます。通常は胃カメラを行います。胃カメラと言うと「エーッ!!」と思う方が多いと思います。でも、心配しないでください。原クリニックの胃カメラは経鼻内視鏡という鼻から入れる直径5.9mmの細い胃カメラです。楽に出来るので安心してください。それでも、ご心配な方は、細い針で麻酔の注射を受けて検査を受けることも出来ます。ピロリ菌検査は血液検査でピロリ菌抗体を調べるか、尿素呼気試験で行います。結果は1週間くらいかかります。
健康保険による除菌療法を受けられるのは、胃カメラを受けた人だけです。
※どうしても胃カメラを受けるのが嫌な人がいます。この場合は、自費でピロリ菌の検査をして、除菌療法を行います。費用は、本来、保険が1~3割負担ですから、その全額負担分となります。
除菌療法が成功したかは尿素呼気試験で調べます。ですから、胃カメラは1回受けるだけです。
ピロリ菌が陰性なのに、胃がんのリスク最大の人がいます!!
ピロリ菌の検査で陰性の人の中に「ピロリ菌が住めなくなったほど」の慢性胃炎の人がいます。胃がんのリスク健診のABC検診の分類のD群にあたる人です。80人に1人の割合で胃がんになると言われています。
ピロリ菌検査が陰性だと言って、安心せず、胃カメラをお勧めします。
原クリニックでは月曜から日曜まで胃カメラが出来ます。
除菌後も年1回の定期健診を受けてください!!
除菌療法が成功したら、「もう、胃がんにならないんだ」と思う人がいます。
除菌をしても、胃がんになる危険は残ります。
ピロリ菌がいた慢性胃炎から、早期胃がんが発生し、内視鏡的切除を受けた人の中で、除菌治療をした人のほうが、除菌しなかった人に比べて、新たに早期胃がんが発生した人の割合は、1/3に減少していました。
ピロリ菌を除菌しても、萎縮した胃粘膜細胞はすぐには回復しません。ですから、除菌が成功しても、
定期的な胃カメラの検査が必要です。
胃カメラによる定期的な検査を行うと、粘膜に発生した早期の胃がんを発見することができ、内視鏡により、胃がんの切除が可能です。バリウム検査では細かい胃の粘膜の変化は分かりにくいです。
胃カメラ
です。