糖尿病の薬物療法で使われる飲み薬
血糖値を下げる薬には注射薬と飲み薬がありますが、ここでは飲み薬についてご紹介しています。
インスリンを出しやすくする薬、インスリンを効きやすくする薬、そして糖の吸収や排泄を調節する薬があり、異なる作用を持つ複数の薬を合わせた配合薬もあります。
それぞれの薬剤にも種類がいくつかあり、飲み方の違い、低血糖の起こる可能性、体重の増加しやすさ、他の薬との相性などを考慮して適したものを選ぶ必要があります。いろいろな作用の薬をその人の特徴に合わせて、効果が上がりやすく、合併症が起こりにくい薬を、単独、あるいは、組み合わせて使っていきます。
薬物療法で注意したいこと 低血糖
薬で血糖値をコントロールするため、薬物療法には低血糖のリスクがつきものです。
低血糖症状とは、
- 目の前が暗くなる
- 冷汗が出る
- 生つばが出る
などです。
最近の薬は単独使用では、低血糖が起こりにくいものが増えていますが、起こった場合は、ブドウ糖の入ったジュースなどの甘いものを摂るようにしてください。調剤薬局で無料でブドウ糖をもらえることが多いです。携帯しているとよいでしょう。
なお、服用する薬によって低血糖が起こるリスクは変わってきますし、現れ方が違うものや決まった対処法が必要なものがあります。医師や薬剤師とよく相談して、しっかり理解して準備しておきましょう。
インスリンを出しやすくする薬
スルホニル尿素薬(SU(エスユー)薬)、速効型インスリン分泌促進薬(グリニド薬)、DPP-4阻害薬があり、それぞれ作用などが異なります。DPP-4阻害薬は週に1度服用するタイプもあります。
スルホニル尿素薬とDPP-4阻害薬の両方を服用する際には、低血糖への注意が特に必要になります。
ここでご紹介している薬は、それぞれ代表的なものです。
スルホニル尿素薬
膵臓のβ細胞を刺激してインスリンの分泌を促進させる薬です。
薬物の名称としてはグリベンクラミド(商品名;ダオニール・オイグルコン)・グリクラジド(グリミクロン)・グリメピリド(アマリール)がありますが、前2者は古くから使われている薬で、現在では、ほとんどがグリメピリド(アマリール)です。いずれも、後発品があります。インスリンを直接分泌させる薬ですから、体重増加が起きやすく、厳重なカロリー管理が必要です。糖尿病の人は、インスリンが不足している病気だと思われがちですが、健常人より、インスリンをたくさん分泌している人がかなりいます。肥った人に多くみられます。インスリンの分泌を促す薬は、すい臓にムチを打って、絞り出させるようなものですから、すい臓が疲弊してしまい長持ちしなくなってしまう可能性があり、体重増加と合わせ、慎重な使用が必要です。ただ、古い薬ですから安価で、使用回数も少ないことから、こちらの処方を希望される患者さんもいます。
速効型インスリン分泌促進薬
インスリン分泌を促進し、血糖値を下げる作用が内服後すぐに効き始め、効果持続時間が短いのが特徴です。食後の急激な血糖値上昇を防ぐ効果が高いため、毎食直前に服用します。
効果時間が短いので、空腹時の低血糖の副作用が比較的少ない長所があります。人間は食物を摂るとインスリンを分泌するのですから、生理的にあっている薬です。
薬物の名称としてはナテグリニド(ファスティック・スターシス)・ミチグリニドカルシウム水和物(グルファスト)・レパグリニド(シュアポスト)があります。
GLP-1受容体作動薬とDPP-4阻害薬
食事をして血糖が上昇すると小腸の一部の細胞から、インクレチンというホルモンが分泌されて、すい臓のβ細胞を刺激し、インスリンの分泌を促進し、同時に血糖値を上げるホルモンのひとつであるグルカゴン分泌を抑制します。インクレチンの1つであるGLP-1の働きをするGLP-1受容体作動薬とインクレチンの分解を阻害して、インスリンの作用を増強するDPP-4阻害薬があります。2021年にGLP-1受容体作動薬の内服薬セマグルチド(リベルサス)が新発売されました。GLP-1は胃の動きを抑制する作用もあるため体重減少の効果もあります。DPP-4阻害薬には毎日内服するタイプのシタグリプチンリン酸塩水和物(ジャヌビア・グラクティブ)・ビルダグリプチン(エクア)・アログリプチン安息香酸塩(ネシーナ)・リナグリプチン(トラゼンタ)・テネリグリプチン臭化水素酸塩水和物(テネリア)・アナグリプチン(スイニー)・サキサグリプチン水和物(オングリザ)、週1回服用するタイプのトレラグリプチンコハク酸塩(ザファテック)とオマリグリプチン(マリゼブ)があります。週1回の薬は、他に薬を飲んでいない人、骨を強くする薬で週1回の薬だけを飲んでいる人や、飲む薬が多くて1度に飲む薬の数が多く1回に内服する薬の数を減らしたい人、内服薬の自己管理ができなくて、家族やヘルパー・訪問看護師に内服を手伝ってもらっている人に向いています。体重増加が少ない、単独投与では低血糖の副作用が少ないメリットがあります。
治療開始時に、初めに使われることの多い薬です。
インスリンを効きやすくする薬
ビグアナイド薬とチアゾリジン薬があり、副作用の出方が異なるため、体質などに合わせて選択します。
ビグアナイド薬
インスリンに対する体の感受性を高め、肝臓からの糖の放出を抑制する作用を持った薬です。インスリンの分泌を刺激しないので、体重増加が少なく、太っている人に向いています。治療開始時から使いやすい薬です。
糖尿病以外の病気がある方には副作用が強く出る可能性があり、ライフスタイルなどによって合わないケースがあるため、注意が必要な薬です。
薬物の名称としてはメトホルミン塩酸塩(メトグルコ・グリコラン)・ブホルミン塩酸塩(ジベトス)があります。
チアゾリジン薬
インスリンに対する体の感受性を高める薬です。薬物の名称はピオグリタゾン塩酸塩(アクトス)です。
糖の吸収や排泄を調整する薬
α-グルコシダーゼ阻害薬と、SGLT2阻害薬があります。作用の仕方、副作用の内容、服用タイミングに特徴があるため、症状や体質などに合わせた薬剤を選択します。
α-グルコシダーゼ阻害薬
小腸に働きかけて糖分の消化・吸収を遅らせる薬剤です。食事の直前に飲む必要があり、吸収するのに時間がかかる砂糖などの二糖類では低血糖が出た場合、すみやかにブドウ糖を服用する必要があります。血糖の吸収が緩やかになるため、血糖の上昇が緩やかになります。お腹が張る、ガスが多くなる、下痢などの副作用があります。
薬物の名称はアカルボース(グルコバイ)・ボグリボース(ベイスン)・ミグリトール(セイブル)があります。
SGLT2阻害薬
腎臓で血液中へのブドウ糖の再取込みを妨げ、尿の中に血中のブドウ糖を排泄して血糖を下げる薬です。300キロカロリーくらい排泄されます。体重が3kgくらい減るといわれていますが、現実的には、もっと減る人、全然、減らない人がいます。前者は、体重が減りだしてモチベーションが上がり、ダイエットを頑張るようになる人?後者は空腹感が出て、余分に食べてしまう人?なんでしょうか。
尿に糖が排泄されるので膀胱炎・外陰部炎などの尿路感染症や、発疹の副作用があります。ブドプ糖とともに水分も排泄されるため、脱水に注意し、水分摂取を心がける必要があります。
薬物の名称はイプラグリフロジンL-プロリン(スーグラ)・ダパグリフロジンプロピレングリコール水和物(フォシーガ)・ルセオグリフロジン水和物(ルセフィ)・トホグリフロジン水和物(デベルザ・アプルウェイ)・カナグリフロジン水和物(カナグル)・エンパグリフロジン(ジャディアンス)があります。
尿にカロリーを捨ててしまうのですから、摂取カロリーを少なくしたのと同じですね。その分たくさん食べられる???
配合薬
異なる作用を持った薬を配合することで、飲む薬の量を減らしたり、価格が安くなるなどのメリットがあります。
ピオグリタゾン塩酸塩(アクトス)とメトホルミン塩酸塩(メトグルコ)のメタクト配合錠LD/HD、ピオグリタゾン塩酸塩(アクトス)とグリメピリド(アマリール)のソニアス配合錠LD/HD、アログリプチン安息香酸塩(ネシーナ)とピオグリタゾン塩酸塩(アクトス)のリオベル配合錠LD/HD、ビルダグリプチン(エクア)とメトホルミン塩酸塩(メトグルコ)のエクメット配合錠LD/HD、アログリプチン安息香酸塩(ネシーナ)とメトホルミン塩酸塩(メトグルコ)のイニシンク配合錠、テネリグリプチン臭化水素酸塩水和物(テネリア)とカナグリフロジン水和物(カナグル)のカナリア配合錠、シタグリプチンリン酸塩水和物(ジャヌビア)とイプラグリフロジンL-プロリン(スーグラ)のスージャヌ、リナグリプチン(トラゼンタ)とエンパグリフロジン(ジャディアンス)のトラディアンスAP/BPなどがあります。